「新婚さんいらっしゃい」




「ホラ、早く起きて下さい!!遅刻しますよ!」

ロイ・マスタングの朝は、奥様の怒号で始まる。
彼としては優しいキスででも起こして欲しいものだったが、いかんせん彼は大変寝起きが悪かったのでそう言うわけにも行かなかった。
夢うつつの状態でその声を聞きながら、寝返りを打とうとしたが、はっしとシーツの端を捕まれる。そのまま引き抜くように掛けていた毛布をはぎ取られてしまい、無意識にロイは身体を丸くして寒さから逃れようとした。

「毎朝毎朝いい加減にして下さい!!」

しぶとく目覚めようとしないロイに業を煮やし、先ほどから声を張り上げている声の主は彼の耳を掴むと思い切り引っ張った。

「いっ・・・・ててててて・・・!!!」

「ようやく起きましたか。ぐずぐずしていたら、朝ご飯食べる時間なんかありませんよ」

そう言ってぷいと踵を返す金髪に、ロイは後頭部を掻きながら欠伸混じりに朝の挨拶をする。

「おはよう・・・リザ、今何時だい?」

「7時50分です」

仕事場までは歩いて10分走って5分。9時までに出勤すればいいから、時間的にはまだ余裕がある。

「なんだ、まだ大丈夫じゃないか・・・」

そんなことを言うロイに向かって、リザは冷ややかに睨み付けた。

「上官がギリギリ出社だなんて、示しがつかないでしょう。朝ご飯もきちんと食べてから行かないと朝の活力が湧きません!」

確かに、リザの言うことはもっともだ。
不承不承ロイはベッドから起き上がった。
椅子の上に用意されていた、綺麗にアイロンをかけられたシャツに袖を通し、制服に着替える。ドレッサーで身だしなみを整えて洗面所に向かった。洗面所に行く途中に有るキッチンからは、トーストの焼ける香ばしい匂いが漂っていた。
ロイが、歯磨きも洗顔もひげ剃りも済ませてダイニングテーブルに着く頃には、時計の針は8時10分を指していた。

「たまには優しく起こされてみたいものだな」

そう言って溜め息を吐くロイに、リザはもっと深く溜め息を吐いてみせる。

「優しく起こして欲しいなら、一度で起きて下さい」

毎朝10分間は格闘しているんです。とリザは付け加え、ロイの前に今しがた焼けたばかりのチーズ・オムレツを差し出した。
今朝のメニューはバターを塗ったトーストにオムレツ。トマトのサラダにオレンジジュース。後は、珈琲。
毎朝きちんと朝食を用意してくれる伴侶に感謝しつつ、ロイは手を合わせた。

「頂きます」

「はい、どうぞ。ゆっくり食べていたら時間無くなりますよ」

その言葉に肩を竦めてみせ、ロイはトーストにかじりついた。
リザは結婚してから退職したために、ロイと共に過ごす時間は極端に減った。朝食を取るこの時間は、数少ない交流の時でもある。

「そういえば今度ハボックが遊びに来たいと言っていたぞ」

「まあ、そうなんですか?ハボック中尉は何が好きだったかしら」

「・・・別にあいつの好きなものをわざわざ作ってやらなくてもいいだろう」

「またそんなこと言って。何時まで経っても焼き餅焼きなのは変わらないんですね」

憮然とするロイにリザはくすりと微笑んで見せた。
そんな二人の足下で、黒い犬が行儀良く座ってその会話を聞いている。もう仔犬とは呼べない彼は、随分と大きくなった。
毎朝交わされる他愛ない会話も、心地良い。

「はい、これお弁当です」

朝食を終えて席を立とうとしたロイに、灰色のハンカチにくるまれた弁当箱が渡される。

「今日のメニューは何かな?」

「サンドイッチですよ。暑くなってくると入れられませんから、今のウチに」

好きでしょう?と言って、にっこりと微笑む顔が大変まぶしかった。
鞄の底にそれをしまい込み、玄関まで歩を進める。と、其処に置いてあったものに目を留め、ロイは溜め息を吐いた。
くるりと振り返り、見送るべく後ろを着いてきていたリザに黒いビニール袋を指さした。

「今日はこれを出せばいいのかい?」

「ええ、今日は燃えるゴミの日ですから。昨夜のウチに出して置いたら放火されたり烏につつかれたりするでしょう?」

どうせ通り道なんですから、良いじゃないですか。
そう何回も言われていたが、やはり人目が気になるのが心情だった。

今から仕事に行くのに、ゴミ出しとはね・・・

しかしそんなことをリザに言える筈もなく。
ロイは見送る妻に軽く口付けた。

「じゃあ、行ってくる」

「はい、いってらっしゃい。ちゃんとお仕事サボらずにこなして、早く帰ってきて下さいね」

元副官である彼女は、ロイの仕事っぷりはイヤと言うほど把握している。
肩を竦めてみせると、ゴミ袋を掴み上げてロイは玄関のドアを開けた。出て行きかけて首だけで振り返る。

「今日の夕飯はなにかな?」

「もう夕飯の心配ですか?」

「帰ってくる楽しみが出来るだろう?」

「・・・・そうですね、今日は・・・ミンチを買ってあるのでハンバーグにしましょう」

「OK。人参グラッセもつけてくれたまえよ」

そう言うと、ドアの向こうに消えていった。
目的を果たしても尚子供のような人だ、とリザは呆れたように肩を竦めた。




Fin

あとがき

あわわわ。パラレルも良いトコっつーか、ナンデスカこれは。(汗)
今回の作品は南東風さんの初々しいロイアイを読んで思いついたネタだったの で、 生みの親となった南東風さんに差し上げたいと思います。
サンドイッチが好きとか夕飯ハンバーグとか言うのも、その辺から実はパクらせ て・・・ いやいやいや・・・・・合わせてみました!!
こちらのサイトのように甘甘しくなくて尻に敷かれてますがご容赦くださいませ 。