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貴方を守るためなら,なにを犠牲にしても構わない。 それが貴方でないのなら。 Remember… T 先程まで辺りを包んでいた銃弾の音がやんだ。 背後の壁には銃痕。コンクリートの地面にも弾はめりこみ,痛々しい情景を描いた。 「…辺りは封鎖しました。今更抵抗しても遅いんです…武器を捨てて,投降しなさい」 ホークアイの言葉に,レインは恨みがましい目をしながらもおとなしく拳銃を捨てて手を上げる。 少しずつこちらに歩み寄って,素直に投降したかに思えた,その瞬間。 「…っく!待ちなさい!」 レインは袖から隠しナイフを取り出し,最前列にいたホークアイをきりつける。 幸い軍服に傷がついただけだったが,レインの身軽な動きには充分な間合いだった。 「残念ながら,まだ死ぬわけにはいかないんだよ」 銃弾が追うもむなしく,レインは近くの通行人の車に乗り込んだ。 誰かが「あ!俺の車!」とでも言っただろうか。 そんなもの,聞こえはしない。 「追うわよ!ハボック少尉!ブレダ少尉!」 「「はいっ!」」 なんとか動けるまでに人が減った。 といってもまだ人が多い。 隣にいる人とは肩が触れ合う。 なんとなくまわりを見渡すと,人だかりができているところがあった。 軍の制服らしい服を纏っている人の姿が視界にはいった。 『・・・?』 なんとなく気になって人を避けながら近づいてみると,軍服を着た女の人。 拳銃を構えて立っている? たしか,お見舞いに来てくれた。 ピシリと頭に痛みが走った。 「・・・あ・・・!」 途切れた記憶が,一気に脳裏を駆けめぐる。 あの人は誰? リザ・ホークアイ。 誰? 大切な,大切な人。 守らなくちゃいけない,愛しい愛しい大好きな人。 自問自答していると,ふたつの声がした。 「…どうしても投降しないと言うのなら…仕方ありません」 「…どうするって?」 パァン! ホークアイは銃を構え,レインに向かって発砲した。 銃弾はレインの脹ら脛を掠った。 「・・・・殺します」 驚くほど冷たい声だった。 足元をかすめた銃弾の所為で鈍った足元を狙って発砲すれば,間違いなく太股を貫いた。 鮮血は雨に混じって地面に血だまりをつくり,足元はみるみる紅く染まっていく。 目の前の相手に沸き立つ感情は憎しみ。 自分の大切な人を傷つけたという怒り。 許せない。 否,許さない。 抑えていたそれが,一気にあふれた。 パァン! 銃弾は腹部を貫き,血だまりを大きくさせた。 「…ぐっ…」 痛さからか動きが鈍るレインに,ホークアイは容赦なく銃弾をあびせる。 避けようが,なにをしようがホークアイの放った弾丸はレインを貫いた。 パァン! 肩。 パァン! 脇腹。 ホークアイはぐっ,と引き金に手をかける。 次は頭を狙う・・・ 「やめろ!君らしくないぞホークアイ中尉!」 背後から声がした。 振り向かなくても誰だかわかる。 ずっとずっと一緒にいた人だもの。 大好きな人だもの。 「大佐を殺そうとしたのはこの男なんです!許せないんです!」 「君が死んだら意味はない!早く離れろ!」 相手が銃を持っていることを,彼女は知らない。 さっきレインが避けたとき,袖口から黒く光るものが見えた。 甦った新鮮な記憶が,拳銃だと知らせた。 「貴方を守るためならこの命など厭わないと,私は貴方に誓いました!」 「私だってそうだ!」 私に発されたその言葉も,私の耳には届かなかった。 勝手に手が動いて,銃を向ける。 数日前と同じように。 ――――照準が合わせられない。 何故? 手が動かない。 あっという間に距離がつまる。 あの時は銃を向けられただけだったけれど。 今は違う。 ここで私は死んでしまうのかしら。 あの人の自信に満ちた,記憶を取り戻した本当の姿を見られないまま? 「クソ…っっ!」 ロイは発火布を手にし,本能が叫ぶままに飛び出した。 ―――――――――――――何が起きたの? なにが起きたのかわからなかった。 赤い爆発。ぐえぇっという男の声。 鮮血がとび,自分より背の高い誰かが目の前で地に伏せる。 瞬時に辺りが血の海と化し,悲鳴が耳にはいった。 「大佐!」 部下のその言葉に,我に返る。 捕らえようとしていたテロ事件の犯人は,私の大切な人の血を引き替えに地に伏せていた。 部下が男を確保し,担架に乗せて運ぶ。 そんなことはどうでもいい。 「…大…佐!」 なにがおきたのかよくわからないけれど,とにかく大変なことが起きたのだ。 自分を庇って飛び出し,代わりに地に伏せた人のもとに駆け寄り,名を呼び,頬を叩いた。 もう一度目覚めろとでも言わんばかりに。 「大佐!大佐!?」 何度その名を呼んだかわからない。夢中でただただ,ひたすら名を呼んだ。 けれど,彼の腕に力はこもらない。ぴくりとすら動かない。指先一つすら。 ただ目に映るのは,自分の軍服を濡らしながら口から滴る大量の血液と,愛しい人の姿だけ。 遠くでサイレンが鳴り響く。その音を最後に,私は意識を手放した。 …真っ暗。 ここが,いわゆる『あの世』とでも言われる世界なのかしら。 手を動かそうとしてみる。動いた感覚はなかった。 ああ,やっぱり私は死んでしまったのね。 やり残したことがあるというのに。 そういえば,あの人を一人残してこちらへきてしまったというのも心残りの一つね。 私がいなくてもきちんと仕事をしてくれているだろうか。 記憶は戻ったのだろうか。 夢は?大総統になるという,あの夢はどうなったの? 無謀だ,なんて皆が言っていたけれど,私は密かに貴方ならなれると思っていたのよ。 どこかで貴方に伝わっていた? そういえば,あのとんでもなく迷惑なミニスカート計画とやらはどうしたの? 心残りはあの人のことだけね。 こんなにおおきくなっていたなんて。 私の中での,あの人の存在が。 ロイ・マスタングという存在が。 ふ,と自嘲の笑みを浮かべたかもしれない。 もう一度だけでいいから,あの人の笑顔を見たかったな――――――― 「…ザ…リザ!」 大きな声に驚いて,私は目を覚ました。 霞みがかった瞳に映ったのは,笑顔をみたいと思ったその人。 私の左手を握り,ずっと傍にいてくれたのだろう。 動かせないはずだわ。 目がいった左手には,しっかりと彼のぬくもりが感じられた。 「リザって…もしかして…」 「ああ…やっと思い出せたよ…君のことも,なにもかも」 「…た…いさ…っ…」 じわりとなにかが瞳にあふれた。 胸が熱い。 胸が痛い。 けれど,それは愛しい痛み。嬉しい痛み。 この痛みが私を切り裂こうとも,構わないわ。 「頼むから…泣かないでくれ。私が泣かせたみたいじゃないか」 以前のような優しい声。瞳には光が満ちあふれて,優しく,優しく私を見つめた。 「・・・・・っ」 声が出ない。 嗚咽ばかりが喉から漏れた。 それなら。 「 !!??!! 」 彼に抱きついて,ぬくもりをかみしめる。 確かに,確かに。 彼はいる。 私の傍にいる。 いつもの彼が,ここにいる。 ああもう,私なんてバカだったのかしら。 もしも彼が私を犠牲にして助かっていたなら,きっと彼は幸せになれない。 自信過剰だと言われてもいい。 だって,だって。彼のことが大好きなんだもの。 一瞬驚いてから,彼は私を腕の中に閉じこめて優しく私の頭を撫でた。 そして子供をあやすような優しい優しい声で,言った。 「これは命令だ。たまにはこんなふうに甘えること」 「あとがき」 はいっ,ご苦労様でございました。 無駄に長い上に展開はやすぎだっつーの。 ちゅーとハンパに終わらせんな! 肝心なトコ抜かして無駄な部分ばっか書いてんじゃねぇ! つーかもっとスピード上げて書きやがれっ! キャラちゃうっ! と言いたいありがたき読者さまの気持ちが痛切に分かるのではありますが… 進歩しない駄文です。スミマセン… ただ単に自信過剰リザ&記憶喪失ロイが書きたかっただけなのです。 それではロイの焔とリザの拳銃に狙われないよう,早々に退散します。 あっ,そういえば!看護婦さんはもと軍部(東方司令部)勤務だったという設定です。 何故にこの人が皆の名前を知っている!?と思った読者の皆々様,こういう設定なので。 |